ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
願えるわけないよ、敬太が好きなのに。
敬太が死ぬのは嫌だから、今回私は誰かを消してほしいと願わなかったのに。
それなのに…ナニカは現れた。
出てきた時、どうして⁉︎と思ったけれど、深く考えている余裕もなく、敬太に連れられて校舎を駆け回っていた。
その疑問が今、再び浮上する。
どうしてナニカは現れたの?
しかも、私がターゲットになっているのはどうしてなの?
その答えは、もしかして……。
手から落ちて地面に転がっている懐中電灯が、近づいてくる誰かの姿を照らしていた。
それは、敬太。
敬太は慌てる様子もなくゆっくりと歩み寄り、泥のついた懐中電灯を拾い上げて、私を照らした。
「敬太、助けて!」
ナニカにジリジリと引き寄せられながら、私は必死に敬太に向けて左手を伸ばした。
その手は……掴んでもらえなかった。
敬太はニヤニヤしながら、もがく私を見下ろしているだけ。
でも、すぐに堪えられないと言いたげに、声を上げて笑い出した。