ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜



「敬太……」


敬太の様子がおかしいのは、新学期の初日に気づいていた。

屋上で、私が全てを白状した時、敬太はあきらかに表情も言動もいつもと違っておかしかった。


でも、今の敬太は……屋上で見た敬太より、もっとおかしい。

壊れていると言った方が適切かもしれない。


笑い続けている敬太に、ゾッとして青ざめた。

ズルズルとナニカに引き寄せられて、私の下半身は冷たくドロリとした気持ち悪い感触に飲み込まれる。


「敬太、お願い、助けて! 正気に戻って!
こんなのヤダよ! どうして私が狙われるのよ‼︎」


上半身のみで暴れながら泣き叫ぶと、敬太が急に笑うのを止めて低い声で言った。


「どうして……? まだ分かんねぇの?
俺がナニカに願ったからだよ。

霞を……殺してくれとな」


「え……?」


「ナニカを操れるのは、お前じゃなくて俺だったってこと。
お前は自分がやったと思っていたんだろうけど、違うんだよ」


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