ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
私が言ってないことまで付け足されて、黒板のナニカが具体的になっていた。
ど、どうしよう……。
あやふやだったナニカが、まるで本当にいるかのようなハッキリした存在に見えてきたよ。
嘘をついて後ろめたい気持ちがあるから、今は早く騒ぎが収まって欲しいのに、これからもっと大きくなっていく嫌な予感が……。
「私、ピアノのレッスンがあるから帰るね。
琴美も一緒に帰ろ? 霞、バイバイ」
絵留は面白くない顔をして、琴美の腕を引っ張って教室から出て行った。
絵留達と入れ違いに教室に入ってきたのは、担任の桜井先生。
先生は残っているメンバーと、黒板の絵と文章を見て、髪の毛が逆立つ勢いで怒り出した。
「あなた達は、全然反省してないんじゃないの‼︎
今すぐ黒板を消しなさい‼︎
ナニカって何よ! そんな馬鹿みたいな物がこの世にいるわけないじゃないの!
遠野さんは馬鹿なの?馬鹿なのね? もうこれから先生は遠野さんのこと……」
教卓をバンバン叩いて、桜井先生はヒステリックに怒りをぶつけてきた。
もう、最悪。
馬鹿って何度も言われちゃったよ。
この前の中間テストで、1年時より学年順位を下げたことまで持ち出して、桜井先生は私を罵る。