ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
ナニカは私の下半身を浸食した後、その範囲を背中まで広げようとしていた。
さっきまで下半身には冷たくドロリとした不快な感触を感じていたのに、今は何も感じない。
冷たくもなく重苦しくもなく、痛みもない。
まるで足がなくなってしまったかのように、感覚がなくなってしまった。
雨でぬかるんだ地面に右頬を付けてうつ伏せで倒れている私は、震えながら首をもたげて斜め後ろを見た。
自分の足があることを確かめたくて。
すると、至近距離にナニカの顔があり、絵留の左耳のピアスが揺れるのを間近に見てしまった。
ナニカを操れるのは、私じゃなくて敬太。
その話が本当だとするなら、敬太が絵留を殺したいと思った理由は何だろう?
そんな疑問にぶつかり、「絵留はどうして?」と震える声で問いかけた。
敬太はニヤリと口の端を吊り上げて、こたえをくれた。
「ウザかったからな」
「え?」