ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
飲み込まれた部分の感覚はなくなり、もがくこともできない。
もう逃げ出すことは不可能なんだと、悟るしかない状況だった。
そんな私を冷めた目で見下ろして、
「ナニカを操れるのは、俺なのかお前なのか確かめたかったんだ」と敬太は言った。
1時間ほど前の教室で、ロウソクの炎の前で私は目を閉じ、指を組み合わせて、ナニカに願うフリをしていた。
その隣で敬太は本気で願っていたということか……霞を殺してくれと……。
ふたりでお互いの死を願い合った時、ナニカはどちらを殺すのか。
その結果で、ナニカを操っているのはどちらなのかがハッキリする。
確かめたいと言いながらも、敬太の中にはきっと、ナニカを操れるのは俺だという自信があったんだと思う。
だから死の恐怖を感じていないかのように、ゲーム感覚で楽しんでいられたんだよ。
敬太の企みを理解している間も、ナニカはゆっくりと着実に私を侵食していた。
とうとう首と左腕も飲み込まれ、頭を持ち上げることさえできなくなる。