ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
敬太は真っ黒な空に向けて、
「喜べ、真斗! 俺は神だ!」と叫んでいた。
ああ……もうダメなんだね……。
敬太は完全に壊れて、狂ってしまった。
真斗の名前を出すことで、正気に戻ってくれるんじゃないかと期待したけれど無理みたい。
心配で、このまま置いていけないよ……。
私はある決意を固めて、敬太に真っ直ぐな視線をぶつけた。
「なんだよ、その目は」
敬太は半歩進んで、私の顔の前にしゃがみ込み、私の頬を撫でた。
「霞は俺が好きなんだろ?
だったら、好きな男のすることを笑って受け入れろ。
安心しろ。お前の目も鼻も口も耳も、全てをナニカのパーツにしてやるから。
そうすればお前は死んでも、俺を見ることができるし声も聞こえるだろ? キスもできるな。
ずっと愛してやるよ。ナニカの一部となった霞をな」
敬太はおかしくてたまらないといった風に、吹き出して笑い始めた。
その高笑いは、雨音の中に飲まれて、辺りに響かず消えて行く。