ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
ブクブクッボコボコボコッという音が、一際強くなる。
そして、とうとう私は頭のてっぺんまでナニカに飲み込まれてしまった。
全身がドロドロの黒い粘液の中に浮いているような気がしていた。
真っ暗闇の中で、目と鼻、耳と唇がものすごい力でえぐり取られる。
不思議と痛みはなかった。
いや、あまりの激痛に、痛みを感じる神経が一瞬にして自動切断されたのかもしれない。
死にゆく私は、心の中で繰り返し呟いていた。
「壊れてしまった敬太を、このまま置いていけない。だから……。
ナニカ、お願い。敬太もコロシテ……」
敬太はひとつだけ勘違いをしていた。
私たちはお互いに相手を殺してと願い合い、その結果、敬太の願いだけが聞いてもらえたと思っているようだけど、違うよ。
私は敬太を殺してと願えなかった。
あの時、願うフリをせずに、わたしも本気で敬太の死を願っていたなら、どうなっていたと思う?
きっと、ふたりともナニカのターゲットになっていたんじゃないかな。
多分ナニカをこの世に生み出したのは、私の嘘と、存在するはずだと信じる敬太の強い想い。
そして、ナニカに願うことで人を殺せるのは……私たち、ふたりとも。
私の顔からは既に全てのパーツが奪われて、ポッカリと穴が開いていた。
何も見えないし聞こえないはずなのに……敬太の悲鳴が聞こえて、黒くドロリとした塊に飲み込まれる姿が見える気がした。
ねぇ、敬太……私たちって、お似合いだよね……。
壊れてしまった敬太でも、ずっと一緒にいてあげる。
地獄で恋を、やり直そうね……。
【完】