ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
敬太も真斗もその他2名の男子も一緒に怒られてはいるけど、私への罵詈雑言が一際多いように感じるのは気のせいかな?
いや、気のせいじゃないよね。
敬太はうちのクラスの人気者。
切れ長の二重の瞳と浅黒い肌が男らしくてカッコイイ。
部活は入ってないけど、バスケ部やサッカー部から練習試合の助っ人を頼まれるほどに運動神経がいい。
恋愛には興味がないみたいだけど、女子にモテる男なんだよ。
真斗も敬太ほどじゃないけど、カッコイイから密かに人気。
桜井先生って、そういう男子には甘いんだよね……。
一応先生だから叱るべき所は叱るというスタンスを取っているけど、今みたいに私が7割、男子3割で怒る姿を見てしまうと、心の中に黒いモノが湧き上がってきてしまう。
嫌だな……。
この先生、嫌いだな……。
桜井先生はまだ私に対して、馬鹿だの頭が足りないだのと罵っている。
私はうつむき加減で罵声に耐えながら、黒板を横目で見ていた。
敬太が慌てて消したナニカの絵は、汚くぼやけてまだ薄っすらと残っている。
それを見ながら、心の中で話しかけた。
もし、本当にナニカがいるのなら、今出てきてよ……。
私があんたの生みの親だよ。
親が馬鹿にされて、あんたもムカつくでしょ?
あんただって、『そんな馬鹿みたいな物はこの世にいるわけない』って言われたんだよ?
存在が否定されて悔しいでしょ?
ねぇナニカ、出ておいでよ。
このムカつく女教師を襲って、消シチャッテ……。