ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
ナニカなんて、いるはずない。
私の作り話なんだから。
それを理解している私が心でナニカに語りかけたのは、苦しかったから。
好きな人の前で罵られるのは、恥ずかしいし、悔しいし、辛いよ。
だから、いるはずのないナニカに話しかけることで、そんな心の苦しさを紛らわそうとしていた。
考えるくらいなら、いいよね?
本当に先生が襲われて消えちゃうはずがないんだから、別に問題ないよね?
その時……ブクブク、ボコボコボコと、液体が沸騰しているような音が聞こえた気がした。
聞こえた方向は、私の正面に立つ桜井先生の後ろの方からで、ハッとしてうつむいていた顔を上げた。
先生へ顔を向けたのは、私だけじゃなく敬太たち男子4人も。
みんなで一斉に驚いた顔をして桜井先生を見たから、先生は怒鳴るのをやめて、
「な、何よ……」
と怯んでいた。
「今、聞こえたよな……?
俺の気のせい?」
「いや、俺も聞こえた。
霞は?」
「う、うん……」