ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜



私達がヒソヒソ話し始めたことで、桜井先生がまた声を荒げた。


「どこまでふざけた子達なの‼︎
真面目に説教を聞くこともできないなんて……」


再びヒステリックに怒鳴り始めた先生だけど、今度は校内放送によって止められてしまう。



『桜井先生、桜井先生、電話が入っています。
至急職員室までお戻りください。繰り返します……』



黒板上のスピーカーに向けて、先生は綺麗な顔に似合わない舌打ちをする。



「仕方ないわね。あなた達はもう帰りなさい。
お家で、よーく反省すること。わかったわね?」



先生が小走りで教室から出て行くと、全員で同時にホッと息を吐き出し、顔を見合わせて少し笑ってしまった。


よかった……。
取り敢えず、ヒステリーから解放されたよ。


その後はさっき耳にした、ブクブクボコボコという音について話し合う。



「ナニカが出てきそうで、鳥肌たったよ、俺」


「音だけでよかったよなー。
出てこられたら、マジびびる」


「そうか? 俺は見たかった。
おーいナニカ、出てきてくれよー!」


「敬太やめろって。さっき人喰い妖怪かもしれないって話したじゃん。
俺は喰われたくねーよ」


「真斗は弱虫だなー。
ヤバい奴なら俺がぶっ飛ばしてやるから安心しろよ。な、霞。

霞……? どうした、顔色悪いぞ。大丈夫か?」



私は教卓にもたれて、肩で息をしていた。


男子達がナニカについて話すのを聞いていると、なんだか胸が苦しい。

冷や汗が出てくるし、動悸もする。


とうとう立っていられなくなって、その場にしゃがみ込むと、敬太が心配して背中をさすってくれた。



これは、敬太に構ってもらうための演技じゃないよ。

本当に気持ち悪くて、吐き気がする。


どうしちゃったのかな、私。

近い内に悪いことが起こりそうな、そんな予感がして気持ちが悪いの……。




< 27 / 247 >

この作品をシェア

pagetop