ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
朝のホームルーム開始まで、あと10分くらいある。
女子トイレの中に他クラスの女子がふたりいた。
お喋りしながら洗面台の鏡の前で、髪を整えている。
トイレの個室のドアは全て開いていて、他に人はいないみたい。
私は奥から二つ目の個室に入って、洋式便器の蓋を開けずに座り、長い溜息を吐き出した。
敬太……絵留と話が弾んで、すっごく楽しそうだったよね……。
憧れのロックバンドがどうこうじゃなくて、もしかして絵留のことが好きだったりして……。
敬太は基本、誰とでも楽しそうに話す人。
明るくて、正義感が強くて、みんなと仲良くできる人だから、絵留に対して特別な気持ちはないと思いたい。でも……。
考え込んでいる内にどんどん不安になってきて、心に焦りが生まれた。
敬太が絵留を好きになったらどうしよう?
1年生の時から敬太が好きで好きで、私は頑張ってたくさん話しかけてきた。
それでやっと最近、グループでカラオケとか映画とか行ける仲になったのに、絵留に持っていかれたら悲しすぎる。