ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
壁際に逃げて身を寄せ合い、恐怖にざわつくクラスメイト達。
逃げなかったのは、私だけ。
いや……逃げられなかった。
ぽっかり空いた教室の中央に立ち尽くし、動くこともできずに震えていた。
本当に、ナニカがこの世に存在するの?
私がついた嘘だったはずなのに、今はもう嘘じゃ済まなくなってるの?
頭の中には、昨日敬太が描いたナメクジお化けみたいなナニカが、勝手に浮かんできてしまう。
敬太の絵とちょっとだけ違う点は、ナニカの目と口が……桜井先生のモノになっているところ。
黒くてドロリとして、ヌメヌメした粘液を残しながら這うように動くナニカが、桜井先生と同じ目でこっちを見て、桜井先生の口で私に語りかけてくる。
『ウンデクレテ……アリガトウ……』
勝手に浮かんできてしまったイメージ映像に、震えが止まらず、両手で自分の体を抱きしめた。
や、やだ……私、何考えてんのよ……。
ナニカなんて、いるはずない。
私は化け物を生んでない。
桜井先生が死んだのは、私のせいじゃない。
何度も繰り返して必死に自分に言い聞かせた。
ナニカの存在を信じそうになる心が、これ以上流されないために……。