ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
異質なワシ鼻



◇◇◇


桜井先生が殺された事件から、約半月が過ぎた6月の下旬。


事件は犯人らしき人が自首してきたことで、一応の解決を見せていた。


その人は、桜井先生の大学時代からの知り合いで、何度も交際を申し込んではフラれていたらしい。


それで最近はストーカーのように付きまとっていて、『殺したいくらいに好きだった』と語っているそうだ。


でも、妙な点もあった。

“ 犯人らしき人 ” だと言ったのは、その人自身も自分が犯人かどうか分からないと言うからだ。


その人は確かに事件当日、帰ろうとしていた桜井先生を待ち伏せて声を掛け、旧友としての会話をしながら駅までの道を並んで歩いたらしい。


現場へと繋がる住宅街の細道に入ったことは覚えている。

でも、殺した記憶はないし、刃物も持っていなかったと言う。


その夜の記憶は二人で並んで歩いているところで途切れていて、その後は気づいたら翌朝になっていたそうだ。


自宅マンションの自分のベッドでいつものように目覚めたら、なぜか自分の両手に乾いた血液が付着していた。


それを台所で洗い流しながらニュースを見ていたら、桜井先生の事件が……。


その人は混乱する頭でパニックになりながら、慌てて警察署に駆け込んだーー。




これが桜井先生の事件に関して報道されている内容だった。


その後は、現在取り調べ中ということ以外は分からない。

凶器も見つかっていないし、持ち去られた先生の目と口も見つかっていない。


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