ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜



つまり梨沙が言いたいのは、『先輩達に気をつけて』ということと、『あまりナニカの話を広げない方がいいよ』という忠告だった。


バレー部の先輩達が敬太をシメルと言ったことについては、「多分、冗談だと思うけど……」と付け加えていた。



話を聞いた敬太は、ムッとした顔をして舌打ちをしている。


梨沙は敬太を心配して言ってくれたのに、敬太は梨沙を含めたバレー部全体に腹を立ててしまった。



「梨沙、その飯塚先輩とやらに言っとけ。来るなら来やがれって。

バレー部、マジむかつく。
ナニカはいるに決まってんだろ。

桜井先生はな、ナニカの存在を否定するようなことを口走ったから、ナニカを怒らせて殺されたんだぞ。

アホなこと言ってっと、てめーも殺されるからって言っとけよ」



怖い声で敬太に言い返され、梨沙は困った顔をしてうつむいてしまった。


「敬太くん、やめてよ。
梨沙は敬太くんのために言ったんだよ?」


絵留が梨沙のフォローに入る。


私は……好きな人と友達、どっちに付いていいのか分からない。


どうしようとオロオロしていたら、急に敬太に手を繋がれて引っ張られた。



「霞、行くぞ。
俺らと途中まで一緒に帰ろう」


「え? う、うん……」



敬太の強引さに逆らえず、真斗も一緒に三人で教室のドアに向かった。


歩きながら『ヤバイかな?』と思ってチラリと後ろを振り向くと、梨沙と絵留が裏切り者に向けるような目で私を睨んでいた。


やっぱり、そうなるよね……。


困ったな。

敬太が好きだから手を繋いで一緒に帰れるのは嬉しいけど……ナニカについてだけは、女子グループの方にいたい気持ちなんだけど……。



< 39 / 247 >

この作品をシェア

pagetop