ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
私も敬太に構ってもらいたいよ。
敬太を引き付ける話をしたいよ。
どんな話題なら敬太は食いついてくれる?
えーと、えーと……。
トイレの中で考え続ける私。
洗面台の鏡の前でお喋りしていた女子二人組の声は、いつの間にか聞こえなくなっていた。
静かになった女子トイレで、私は「そうだ!」と声を上げた。
思い出したことがあった。
先週、敬太が昼休みに珍しくひとりで本を読んでいた。
『何読んでるの?』と聞きに行ったら、それは漫画の本。
『真斗(マサト)に借りた本。
スゲェ、面白れぇ。
霞も読みたいなら、真斗に言ってみ?』
あの時、敬太が面白いと言うなら私も読みたいと思ったけど、無理だった。
だって、表紙の絵がグロイんだもん。
敬太が話してくれた大雑把な内容も、気持ちの悪い妖怪がうじゃうじゃ出てきて、血が噴き出したり人間が食べられたり、中身もグロイらしい。
ホラーが苦手というわけじゃないけど、気持ち悪いのはちょっと嫌かな。
共通の話題を持てるチャンスなのに、残念……。