ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
敬太を止めることは、私には出来そうにない。
真斗でもだめなのに、私なんかに敬太を止められるわけがない。
それならば、梨沙に……。
考えてみれば、こんなことになった責任の一端は梨沙にある。
敬太の『来るなら来いって言っとけ』という台詞を、バレー部の先輩達にそのまま伝えたのは梨沙でしょ?
だから、梨沙に何とかしてもらわないと。
敬太をシメルなんて止めてよと、先輩達に言ってもらわないと。
「梨沙、お願い!
飯塚先輩に、止めてって言って……」
「無理だよ!」
梨沙の腕を掴んだ私の手は、強く振り払われてしまった。
いつもは優しい梨沙が、睨むように私を見ている。
今まで梨沙の口から聞いたことのないキツイ台詞が、私に向けて吐き出された。
「霞って、バカなの?
後輩の私に、飯塚先輩を止める力なんてあるわけない。
それに、そんなこと言ったら、私が先輩達に敵認定されてバレー部にいられなくなるんだよ!
だいたい、自業自得じゃん。
私、一昨日忠告したのに。
それを無視したのは敬太じゃない。
敬太なんかシメられちゃえばいいんだよ!」
「梨沙……」