ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
ナニカの表面は一様にヌメヌメどろどろした状態で、どっちが前で後ろかも分からない。
と思ったら……。
ブクブクブクッと泡立つ音がして、それと同時に賽銭箱に乗っている塊の前面が波打った。
そして、内側から浮かび上がってきたのは、ナニカの顔。
まつげの長い二重の目が2つと、やけに赤い口は、約半月前に亡くなった桜井先生と似ていて……。
大きなワシ鼻は、飯塚先輩のものと似ていて……。
右目と鼻の位置が逆で、唇は縦になっていた。
そんな不気味な配置に並んだ顔のパーツで、ナニカは私を見てニィィと笑った。
地面にお尻を付けたまま、ガタガタと震えていた。
恐怖のあまり目を反らすことさえ出来ない私に向けて、ナニカはゆっくりと移動を始めた。
「ヤベッ、逃げるぞ!」
敬太が慌てて、私の腕を引っ張り立ち上がらせる。
そうだよ、逃げなくちゃ。
捕まったら飯塚先輩みたいに殺されてしまうかもしれない……。