ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜



そう思うのに膝がガクガク震えて、立つだけでやっとという情けない状態になっている。


「霞! 何やってんだよ!」


「ご、ごめん。でも歩けない……」



敬太は舌打ちして私の左脇に入り、私の腕を自分の首に回しかけた。


すぐに真斗も同じようにして、私の右側を支えてくれる。


ふたりに持ち上げられるようにして、私は神社の階段を駆け下りた。


草むらに置いていた自転車を道路に押し出しながら階段の上を見たけど、ナニカの姿はまだ見えない。


移動速度が遅いのか、それとも私たちを追いかけるつもりはないのか……。

分からないけど、今はなるべく早く遠くに逃れたい。


私の自転車に敬太と二人乗りをして、真斗はひとりで自分の自転車をこぐ。


怖くて、怖くて、私は荷台に座りながら敬太の背中にぎゅっとしがみついていたけれど、敬太は興奮と歓喜が混ざったような声色で叫んだ。



「スゲーよ‼︎ マジで化けもん見ちまったよ!
ヤベーッ、ぞくぞくするー!」


ナニカに関して敬太は初めからこんな調子だった。

まるでホラー漫画の主人公になったつもりで、恐怖を楽しんでいるような。


敬太のことは好きだけど、その感覚は理解できないし、したくもない。


ナニカなんているはずないと思っていたのに本当に存在するなんて、衝撃と恐怖でまだ心臓がバクバク鳴っている。


混乱した頭では上手く考えられないけど、『私のせいなの?』というもう一つの恐怖も感じていた。


ナニカは私の嘘から生まれたのかもしれない。

そのせいで、人が二人、死んだのかもしれない。


私のせいで……やだ、どうしよう……。




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