空蝉


翔とふたりでマンションの斜向かいにある公園のベンチに座る。


どうしてあの女が暖房の効いた部屋で、俺がこんな寒空の下なんだ。

不公平感を感じ、充はイラ立って煙草を咥えた。



「今度は怒った顔してるな」


はっとして顔を向けると、苦笑いの翔は、



「兄貴ってさ、みんなからは無表情とか言われてるけど、わりとわかりやすいよな」


そして翔は、「同じ血が流れてるからかな」と、また苦笑いした。



愛人の子のくせに、まわりからの同情を得ていつも愛されている翔。

対照的に、本妻の子なのに誰からも求められない充。


翔のことを恨んで、大嫌いになれたら、どんなに楽だったろう。



「お前なんかに俺の何がわかるっていうんだよ」


気付けば充は低く吐き捨てていた。

瞬間、翔の顔に影が落ちる。


またそうやってお前は傷ついた顔をするのか。



「愛されてるお前なんかに、俺の苦しみがわかるはずないだろう!」


怒りのままに、充は火のついていない煙草を翔に向かって投げ付けた。

しかし、翔は顔をうつむかせたまま、微動だにせず、



「俺のほしいもんを全部持ってる兄貴が、何を苦しむの?」


翔は、充が投げ付けた煙草を拾い上げ、自分の持っていたライターでそれに火をつけた。

「苦ぇな」と、ぼそりと言った翔は、



「俺はあんたのこと好きだよ。助けてくれたことに対して感謝もしてる。けど、その反面で、ずっと羨ましくてたまらなかった」

「……俺のことが、羨ましいだと?」

「ちゃんと両親が揃ってて、金持ちの家に生まれて、頭もよくて、何不自由もない生活をしてて」
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