空蝉
借りた翔の車を強引に駅のロータリーに停めて、乗り捨てるような勢いで駅構内へと急いだ。
「あ、充さんだ。珍しいっすね、こんなとこで。どうしたんすか?」
見知らぬ男がのん気に声を掛けてくる。
充は息を切らしながら「エミを見なかったか?」と早口に聞いた。
「エミさんなら、さっき改札を抜けて行きましたよ」
「マジかよ!」
聞いた瞬間、充は男の手にあった切符を奪い取り、
「貸しにしとけ」
言うや否や、急いで改札をくぐり、ホームの方へと走った。
男が追いかけてきて文句を言ってくる気配はない。
こんな時に昔のやんちゃっぷりが役に立つとは、と、思ったけれど、今はどうだっていい。
適当なホームへと向かう階段を降り、そこであたりを見まわした。
「エミ!」
ラッシュ時ではないとはいえ、人の数が少ないわけではない。
目を凝らしながらもう一度「エミ!」と叫んだ。
そこでやっと、向かいのホームに大きなボストンバッグを持って佇んでいるエミを見つけた。
「おい、エミ! 何やってんだよ、お前!」
充の上げた大声が駅構内に響き渡り、その場にいた人たちだけでなく、違うホームにいる人たちまでこちらを見ている。
が、そのおかげで、少し声が通るようになった。
エミは驚いた顔で目を見開き、何で、とでも言いたそうに口を動かしたが、
「今すぐ行くから、そこから動くなよ!」