空蝉
言い捨てた充は、再び階段をのぼり、隣のホームに向かった。


こんなに走ったのなんていつ以来だろうか。

おかげで心臓が爆発してしまいそうだったが、今死ぬわけにはいかないから。



冬も近いのにひたいに汗し、はぁはぁと肩で息をしながら、やっとエミのところまで辿り着いた。



困惑した顔のままのエミは、少し泣きそうに見えた。

充は、唇を噛み締めてうつむくエミの腕を掴む。



「どこに行くつもりだった?」

「どうして……」

「旅行なら、もっとあったかくなってからにしろよ。お前、寒いの苦手だろ? な? 帰ろうぜ」

「どうしてここにいるのよ! 私たち、もう別れたでしょ!」


涙目でわめき、エミは充の掴む手を振りほどく。



アナウンスや警笛と共にホームに電車が入ってきた。

あたりにいた人たちが動き出す。


その場にいるふたりを取り残したように、人の波ができていた。



「別れたんだから、私が何をしてようと、充には関係ない! 私、もう行くから!」


荷物を持ち上げようとしたエミに、



「行くなよ」


雑踏に掻き消されてしまいそうな声で言った充。

エミの動きが止まる。



「どこにも行くな。俺の傍にいろ」


再び、アナウンスと共に警笛が響き、電車はドアを閉めて走り出した。


エミは目の淵を赤くしたまま、何も言わなくなった。

ここでは話もできないと思い、充は「とにかく来い」と、今度は強引にエミの腕を引いた。

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