空蝉
エミは一瞬、驚いたように目を見開いて、でもすぐにそれを伏せた。


膝の上で作っている小さな拳が震えていた。

充はそのエミの手を、包み込むように握る。



「お前が嫌がるようなことはしたくなかったし、言いたくなかった。お前の好きなようにさせてやりたかった。ずっとそう思ってた」

「………」

「でも、本心では、お前の中の翔との記憶全部消えればいいって思ってたし、お前のこと縛りつけて誰にも見せたくないとすら思ってた」


エミの手は、今日も冷たい。



「どうして俺と別れたいと思った?」


喉の奥が焼け付くように熱い。

それでも充は声を絞り出す。



「俺の何が嫌になった?」


問う充に、エミは唇を震わせながら、



「嫌になんてなるわけない。充はいつも優しい。私の気持ちを最優先に考えてくれる。今でもすごく好き」

「だったら」

「でもね、それだけじゃダメなの。一生、このままの関係が続くわけなんてない。だから、別れようと思ったの」


何が『ダメ』なのか、どうしてそれで『別れようと思った』になるのか、まるでわからない。

顔を上げたエミは今も涙目のまま、



「カイジとチロちゃんに子供ができたって聞いた。結婚するんだって」

「うん」

「じゃあ、私は? 私と充は? 私たちの関係はずっと変わらない。変わらないことでしか一緒にはいられない」

「………」

「私と充に、将来なんてものはない」


確かに、現状維持のまま、ずっと変わらないで居続けたいと、充は思っていた。

だからこそ、この家を出ようとは思わなかったし、『将来』なんてものを考えたこともなかった。


息を吐いたエミは、
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