空蝉
どうしてひとりで背負おうとするんだ。

エミの気持ちを想うと、充は悔しくなって顔を覆った。



「だから、俺のために自分から身を引いたって言うのか?」


目を逸らすエミ。



「じゃあ、俺の気持ちはどうなるんだよ! そんなんで俺が喜ぶとでも思ったか? こんなの間違ってんだろ!」


叫び、充はエミの手を引いた。

「ちょっ」と、驚いたままのエミは、されるがままで。


そのまま一気に1階まで階段を駆け降りた。



「おい、ババア!」


ドタドタとリビングに入ると、急須で茶を淹れていたらしい母は何事かという顔で手を止めた。



「騒々しいわねぇ、まったく。静かになさいな。それにあなた、その言葉遣いをどうにかしなさいと言ったはず」


そこまで言った母は、そこで初めて充に手を引かれているエミの存在に気付き、あからさまに嫌な顔をした。

そして、誰にでもわかるほど嫌味ったらしくため息を吐き、



「まだそんなお嬢さんとお付き合いしてたの? やめてちょうだい。家が汚れてしまう」


充はエミの手を、より強く引き、母を睨んだ。



「あんたは家が綺麗ならそれでいいのかよ? あんたが守ってるこの家のどこにそんな価値があるんだよ! 金はあっても中身はからっぽじゃねぇか!」


母はそれには取り合わない。

何を言っているんだとばかりの顔で、



「あなたはお父さまの跡を継いで、立派にならなきゃいけないのよ、充さん。そのために私がどれほど心を砕いているか」

「砕けてんのは家族の絆だろ!」


充の怒声に、母はひどく驚いた顔をした。
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