空蝉
身ひとつで家を出て、充はエミを連れて近くのビジネスホテルに入った。
「どうしてあんな馬鹿なこと言ったのよ! どうするのよ、これから!」
エミはおろおろしながら部屋中を歩きまわっていた。
充はベッドに片膝を立てて座り、煙草の煙を吐き出しながら、
「とりあえず、部屋借りる。当面の金ならあるし、どうにでもなるだろ。なくなったらまた稼げばいいんだし。心配すんなよ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
エミは癇癪を起こしたように、
「私と一緒にいるために家族との縁を切るだなんて、どうかしてるわよ!」
言ったエミは、いきなり顔を覆い、息を吐いた。
そして、蚊の鳴くような声で、
「充、ずっと言ってたじゃない。『あんなんでも俺の家族だから』って。『俺がいなきゃダメなんだよ』って」
充はエミの腕を引いて隣に座らせた。
泣きそうなエミの肩を抱いた充は、
「家族なんてとっくの昔に壊れてた。俺はただ、それを見ないようにしてただけだ。だから、いいんだよ」
「………」
「エミが言った通り、一生、このままなんてことはない。俺だっていつかはあの家を出る日が来る。それが今だっただけだ」
「………」
「親を捨ててでも、俺はお前といたいと思った。お前と、ちゃんとした家族を作りたいと思った」
「充……」
エミは肩を震わせながら泣いていた。
くしゃくしゃの顔。
「泣くなよ。美人が台無しだぜ?」
なのに、エミは今度はわんわんと泣く。
困ったなと思いながらも、充は笑ってしまった。