空蝉
しかし、充はそんな父の、のらり、くらりとしたような態度に、無性に腹が立った。
「全部、あんたが悪ぃんだよ! あんたが不倫なんかしやがるから、俺らが苦しまなきゃならねぇんだ! 俺らの人生を壊したのは、あんただよ!」
それでも父の表情は変わらない。
まるで、それを言われることがわかっていたような顔で、
「そうだな」
とだけ。
充は悔しくなった。
これじゃあ、ひとりで怒ってる俺が馬鹿みたいじゃないか、と。
父は息を吐いて煙草を咥えると、
「言い訳に聞こえるかもしれないが、父さんだって初めは頑張るつもりだったんだ、母さんとのこと。しかし、どうにも歯車が噛み合わなくてな」
「母さんとは、家同士が決めた見合い婚だった」と、父は言った。
当時、父には「交際していた女性がいた」らしいが、「親の意見には逆らえなくて」、「泣く泣く恋人と別れて母さんと結婚した」のだそうだ。
しかし、母も母で、交際していた男性と別れて父と結婚したらしい。
「初夜の時、母さんは泣いていた」、
「泣いていたから何もしなかった」、
「思えばそれが、その後の大きな溝になってしまったのかもしれない」。
父は煙を吐き出しながら、目を伏せた。
「それでもお互いに割り切って一緒に生活した」結果、「それから少し経って子供ができたと母さんから言われた」のだそうだ。
それが、充だった。
「生まれたての充は本当に可愛かったし、この子や妻のために頑張ろうと思った」と、父は言う。
夫婦の間に小さな溝は残されたままだったが、それでも子供を介して必死で家族になろうと努めた父。
「全部、あんたが悪ぃんだよ! あんたが不倫なんかしやがるから、俺らが苦しまなきゃならねぇんだ! 俺らの人生を壊したのは、あんただよ!」
それでも父の表情は変わらない。
まるで、それを言われることがわかっていたような顔で、
「そうだな」
とだけ。
充は悔しくなった。
これじゃあ、ひとりで怒ってる俺が馬鹿みたいじゃないか、と。
父は息を吐いて煙草を咥えると、
「言い訳に聞こえるかもしれないが、父さんだって初めは頑張るつもりだったんだ、母さんとのこと。しかし、どうにも歯車が噛み合わなくてな」
「母さんとは、家同士が決めた見合い婚だった」と、父は言った。
当時、父には「交際していた女性がいた」らしいが、「親の意見には逆らえなくて」、「泣く泣く恋人と別れて母さんと結婚した」のだそうだ。
しかし、母も母で、交際していた男性と別れて父と結婚したらしい。
「初夜の時、母さんは泣いていた」、
「泣いていたから何もしなかった」、
「思えばそれが、その後の大きな溝になってしまったのかもしれない」。
父は煙を吐き出しながら、目を伏せた。
「それでもお互いに割り切って一緒に生活した」結果、「それから少し経って子供ができたと母さんから言われた」のだそうだ。
それが、充だった。
「生まれたての充は本当に可愛かったし、この子や妻のために頑張ろうと思った」と、父は言う。
夫婦の間に小さな溝は残されたままだったが、それでも子供を介して必死で家族になろうと努めた父。