空蝉
「彼女は養育費なんていらない、あなたを愛してるのと泣いていた」らしいが、父だって母と離婚することなどできなかったため、それでどうにか折り合いをつけた。

それで終わらせるのが一番だと、父は思っていたらしい。


けれど、すぐに母の知るところとなってしまった。


毎月、決まった日に、決まった女性の名前の口座に、決まった額の送金がある。

母がそれに気付かないわけもなく、昔の恋人とのことも、そこに子供がいることも、すべて知られてしまったのだそうだ。



母との溝は、いよいよ埋められないものになってしまった。



顔を合わせれば喧嘩ばかり。

その度に泣きわめく母。


「本当に疲れてしまっていた」と父は言う。



だから、逃げたくなって、また昔の恋人に連絡を取ってしまった。



ほとんど衝動的に関係を持った。


結果、たった一度のことで、また子供ができてしまった。

それが、真理だ。




「妻にも、彼女にも、罪悪感でいっぱいだった」、

「家になど帰れず、ましてや彼女のところにも行けなかった」、


「だから、わざと遅くまで仕事の予定を詰め込み、早く終わった日にはビジネスホテルに逃げ込んだりしていた」。





「充や、翔や真理には、本当に悪いことをしたと思っている」


父は懺悔するように言った。



「ふざけんなよ……」


拳を作った充だったが、声は弱々しかった。


だから許せとでも言いたいのだろうか。

最低な父親なんだから、もっとひどい態度でいてくれたら、母のように、恨みや憎しみだけを向けられたのに。
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