空蝉
これじゃあ、怒りのやり場がないじゃないか。


父は改めて充を見た。

シワの増えたその目元。



「充は自分が選んだ人生を、自分で歩みなさい」

「………」

「ただひとり、愛する女性だけを大切にしてやりなさい。父さんのようになってはいけない」

「………」

「父さんは、誰も幸せにはできなかった。しかし、充は違う。お前は、きちんとした意思と意見があるんだから、それを貫くんだ」


色々なものがごちゃ混ぜになったような涙が溢れた。


あんたに言われたくねぇよ。

と、思う反面で、父は父なりに充のことを考えていたのだという事実。



「俺はどんな子供だった?」


考えるより先に、その問いが口をついた。

父は懐かしむような顔で煙を吐き出しながら、



「小さい頃は体が弱くて、何度も救急病院に連れて行った。しかし、高熱を出して苦しみながらも、充は親を心配させないように、辛いなどとは決して言わない子だった」

「………」

「強くて、賢くて、そして家族想いの優しい子だよ。今の充そのままだ」


嗚咽が漏れる。



「あんたは俺に興味がないんだと思ってたのに」

「そんなことはないさ。充は私の息子だ。愛しい、息子だよ」

「………」

「向き合う資格がないと思っていたんだ、父さんは。その所為で充に嫌われても仕方がないと思っていた」


あんたなんか大嫌いだよ。

言いたかったのに、それ以上は言葉にならなかった。


声を押し殺しながらも、子供みたいに泣きじゃくる充に、父は、
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