空蝉
見当違いなことを言う翔に、充はついにこらえ切れなくなって、声を立てて笑ってしまった。



「何? 何で俺、笑われてんの?」


電話口の向こうで怪訝な声を出す翔。

充は「こっちのことだから気にするな」と言い、咳払いをしてから、



「まぁ、お前も仲よくしろよな、あのガキと。今度は離すなよ」

「そうだな。また兄貴に奪われたくねぇしな」


充の嫌味を、翔も嫌味で返してきた。

そのままふたりで笑って、電話を切った。


何かが解決したというわけではないが、それでもどうしてだか、充はすっきりとした気分だった。


部屋に戻った。

静かにドアを閉めたつもりだったが、エミは小さな物音で起きてしまったらしい。



「ん……」


目を擦りながら、ぼうっと充を見上げたエミは、



「どこかに行ってたの?」

「ちょっと、煙草買いに」

「さっき新しい箱を開けたばかりじゃなかった?」


鋭いなと思う。

曖昧な笑みでしか返せない充に、体を起こしたエミは、



「女?」


と、睨むように聞いてきた。



「私と別れてる間、女がいたんじゃないの? 今、その女と会ってたんじゃない?」

「何でそういう発想になるんだか」


口を尖らせるエミ。

充は笑ってしまった。


こいつはほんとに俺のことが好きなんだなと思うと、愛しさが増す。
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