空蝉
「女がいたら、わざわざお前のこと追いかけて引き留めねぇよ」


充はベッドに腰掛けた。



「俺は親父とも翔とも違う。お前を泣かせるようなことだけはしねぇ」


はっきりと言った充。


エミは目を丸くしていた。

が、次にはクスリと笑い、



「そうかなぁ。充は、お父さんとも翔とも、根本的なところは似てると思うけど」

「どこがだよ。似てねぇだろ」

「似てるわよ。女に対して甘いところとか、特に」


自覚はない。

充はよくわからずに首をかしげたが、



「これが親兄弟の血縁ってやつなのかしら」


エミは笑いながら言った。


思えばエミと、こんな風に、父や翔のことを話したのは、初めてだ。

どこかタブーにしていた話題だったが、でも今は不思議と嫌な気分にはならない。



「翔と別れて俺と付き合ったこと、後悔したことあるか?」

「ない」


エミは即答した。

充は思わず笑ってしまった。



「俺もだよ。俺も、お前を翔から奪い取ったこと、後悔してねぇよ。誰に後ろ指を差されたって、二度と別れるつもりねぇし」


充はエミの肩を引く。



「覚悟しとけ」

「何の『覚悟』?」

「俺と死ぬまで一緒にいる覚悟」


エミは「これだから元ヤンは」と言っていたが、耳が少し赤くなっていた。

充はまた笑い、そんなエミの頭を撫でてやった。
< 125 / 227 >

この作品をシェア

pagetop