空蝉


久しぶりに真理の夢を見た。

それはまだ、真理が中学1年だった頃のことだ。



「充くんって、顔は怖いし、ぶっきら棒なところもあるけど、ほんとは優しい人だよね」


どんな会話の中で言われた言葉なのかは、覚えていない。

でも、真理が言った言葉だけは、一言一句、間違わずに思い出せる。



「充くんはね、みんなのために、自分が我慢できる人。言いたい言葉を飲み込んで、言わないようにできる人」

「………」

「だけどね、言わないと伝わらないこともあるんだよ。自分の気持ちを言葉にすることは、決して悪いことじゃないよ」


あの頃は、真理の言葉の意味を深く考えたことなどなかった。

けれど、今は、理解できる。



「ありがとな。でも、俺はもう大丈夫だよ」


充は夢の中で、真理に向けて笑いかけた。




目を開けたら、カーテンの隙間から、朝日が漏れていた。

まだ隣で眠ったままのエミ。


充はひどく穏やかな気持ちで、伸びをした。



昨日までとは違う、新しい朝が来た。










END

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