空蝉
真理は最期まで、ケイにいじめられていたことを言わなかった。


「遅くにごめんね」、「じゃあ、おやすみ」と、一方的に電話を切った真理。

だが、ケイはそれを不審に思うこともしないまま、悠生のことを考えていた。




翌朝、真理は、学校のトイレで首を吊って死んだ。




ケイが死ぬ思いで悠生に告白したあの日、真理は死ぬことを思っていたのだ。

真理はどんな想いで自分に電話をしてきたのか。


なのに、何も汲み取れず、悠生のことを考えていた自分に憤りさえ覚えた。



泣いても泣いても、悔んでも悔やんでも、真理が生き返ることはない。




真理の葬儀にはたくさんの人がきていた。



プリクラで顔だけは知っていた『よっちゃん』は、真理の棺に縋って泣き叫んでいた。

「どうして?」、「俺を置いていかないで」、「お願いだから目を覚まして」と。


私が何も気付けなかったから悪いんだ、と、喉元まで言葉は出掛かったのに、結局、ケイは言い出すことができなかった。


「愛してるのに」、「真理がいてくれればよかったのに」と、悲痛に叫ぶ『よっちゃん』の姿は、今でも目に焼き付いて離れない。

そして、それと同時に、ぼうっと立ち尽くしたままの、真理の兄の色を失ったような目も、ケイははっきりと覚えている。




真理が死んでから、いじめの事実が発覚した。


でも、学校はそれを隠蔽した。

真理をいじめていた女の子たちは、その後、転校したり、登校拒否になったりと、今ではどこで何をしているのかもわからないけれど。



真理の家族や『よっちゃん』も、その後、どうしているのかはわからない。



ケイは葬儀以降、一度も真理に会いに行っていない。

一度くらいは花を手向けに行こうと、命日の度に思うが、それと同時に湧き上がってくる自責の念。


私は本当に真理の『親友』だったのだろうか。

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