空蝉
「どこ行ってたんだよ、ケイ。置いて帰るところだったぞ」
教室に戻ると、すでに荷物を持っている悠生が。
「ごめーん。生物のプリント提出しに行ってたんだぁ」
ケイは努めて明るく言った。
だが、悠生は、ケイの言葉に特に関心を示すこともなく、近くにいたアユを呼んだ。
「アユ、駅まで行くだろ? ついでに一緒に帰ろうぜ」
アユは悠生を見て、ケイを見た後、「私、邪魔でしょ」と返してきたが、
「いいって、いいって。気遣うなよな。それに今更、ケイと積もる話もないし」
それはひどいよ、悠生。
でも、そんなことを言葉にはできなくて。
「そうだよ。一緒に帰ろうよ、アユちゃん」
ケイはまた笑いながら言った。
高校に入って仲よくなったアユは、悠生と同じくらい大切な存在だと、ケイは思っている。
もう、真理の時のような過ちを犯したくはないし、何より今度こそ胸を張って『親友』だと言いたかった。
ケイはそう思っているのだが、当のアユはといえば、他人とはどこか一線を引いているような雰囲気がある。
「うーん。でも、ごめん。今日はやっぱりちょっと」
気を遣ってくれているのか、それとも本当に一線を引かれているのか。
アユは曖昧な言葉でふたりの誘いを断った。
「じゃあ、いいや。また明日な、アユ」
悠生はケイに「帰ろうぜ」と促した。
アユに手を振って、ふたりで教室を出る。