空蝉
廊下には西日が射していた。


そこでふと足を止めた悠生は、目を細め、窓の外を見た。

グラウンドでは、後輩たちが部活をやっている。



「サッカーしたい?」


ケイが問うてみたら、悠生は「そりゃあね」と言うに留め、また歩を進め出す。



夏休みの最後の試合に負けて引退した悠生。

中学でも高校でもキャプテンで、だから人一倍、サッカーが好きなことは知っている。


今の悠生は、少しだけ、抜け殻だ。


大学は、特にサッカー部が有名ではない、地元の国立を受験するつもりらしい悠生。

高校はどうにか同じところに合格できたケイだったが、今度ばかりはそうもいかないため、先のことはわからない。




ケイは小走りに悠生の背中を追い、ふたりで帰路を辿った。



「ねぇ、アユちゃん、これからカレシと会うのかなぁ?」

「さぁ?」

「アユちゃんっていつも何も言ってくれないよねぇ。私、ちょっと寂しい」


口を尖らせるケイに、悠生は、



「俺、アユのカレシ見たことあるよ」


と、言った。

ケイが「うっそ!」と驚いたら、


「いや、はっきりとそうだとは言えないけど、でも何となくそうだろうなぁ、って。ほら、夏休みに登校日あったじゃん? あの時に」

「どんな人だった?」

「見た目はチャラチャラした感じで、中身は俺様系? あ、車持ってたから年上だな」


説明は漠然としすぎている。

ケイはアユのカレシを想像してみたが、まるでよくわからなかった。



「いいなぁ、悠生だけ。私もアユちゃんのカレシと会ってみたーい」

「別に俺だって偶然で」

「今度、アユちゃんに頼んでみよっかなぁ」
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