空蝉
2
朝、学校に着くと、廊下の隅に悠生とアユの姿を見つけた。
駆け寄ろうとしたケイだったが、ふたりがあまりにも神妙な顔で何かを話していたので、思わず柱の陰から聞き耳を立ててしまった。
「ねぇ、あんたほんとにそれでいいの?」
「もう決めたことだ」
「私は別に、悠生が後悔しないならいいけどさぁ。でも、まだ時間あるんだし、もうちょっとじっくり考えてみたら?」
「………」
「っていうか、ケイにちゃんと話しなよ。そしたら、ケイだってわかってくれるよ、きっと」
「アユは俺の選択が間違ってるって言いたいのか?」
「だから、間違ってるとか間違ってないとかじゃなくてさぁ」
イラ立ったように頭を掻いたアユは、
「自分の選択が間違ってないと思うなら、どうしてそんな浮かない顔してんの? ほんとは迷ってるからじゃないの?」
「………」
「迷いがあれば、いつかはそれが後悔に繋がるよ。そうなってからじゃ、遅いんだよ? あとで後悔したって、誰の所為にもできないよ?」
アユは悠生に詰め寄った。
悠生は怒った顔で、「でももう決めたんだ」と強い口調で返した。
何の話?
思わず、飛び出して聞きたくなった。
でも、ケイはぐっと我慢する。
寂しさとか、悲しさとか、怒りとか、虚しさとか、嫉妬心とか。
色々な想いがぐるぐるまわる。
誰より悠生のことを知っていると自負しているケイだが、その心までは、まるでわからない。
悠生が何に迷い、そして何を決めたのか。
ねぇ、どうして私じゃなくてアユちゃんに言うの?
ケイは泣きそうになりながら、その場で膝を抱えた。