空蝉
その日の放課後。
いつものように、悠生と一緒に帰路を辿る中で、ケイは何でもないことのように聞いてみた。
「そういえばさぁ。今朝、廊下でアユちゃんと何か話してなかった?」
悠生はケイを一瞥したが、表情を変えることなく、
「数学の山センがムカつくって話」
と、あきらかな嘘を、さらりと言った。
どう見ても、どう聞いても、そんな話ではなかったはずだが。
それでもケイは、盗み聞きをしていたと思われたくはなかったため、「ふうん」と返すに留めた。
「それより、日曜、映画に行くんだったよな? 待ち合わせ、何時にする?」
悠生は話を変えたいのだろうか。
私には知られたくないことなのだろうか。
邪推しながらも、「じゃあ、10時に駅で」と、条件反射のように笑顔で答えてしまう自分。
悠生にだけは嫌われたくなかった。
悠生との関係まで壊れてしまったら、私には本当に何もなくなってしまうから。
「映画が終わったら、図書館に行こうぜ。久しぶりに、勉強、見てやるよ」
「ひゃー。休みの日まで勉強のこと考えたくなーい」
「受験生の台詞だとは思えないな」
「いいじゃーん。たまには脳を休めなきゃって言うでしょ?」
「それは、普段勉強してるやつの場合だろ」
ケイがおどけて見せると、悠生は呆れた顔になる。
いつも通り。
でも、こうやって悠生は、私に隠しごとを増やしているのだろうなと思ったら、何だかまた虚しくなった。
私は、一体、何のために頑張っているのだろうか、と。