空蝉


土曜の夜。



明日は悠生とデートだからパックして寝ようと、風呂に入りながら思った。

風呂から出て、髪を乾かし、パジャマ姿でリビングに戻ると、父と母がいたから驚いた。


ふたりは幽霊のような青白い顔をしていて、父は食卓に座り、母はキッチンに立っていた。



「何? どうしたの?」


前から体調がかんばしくないらしい親戚が、ついに亡くなってしまったのかと思った。

じゃあ、明日のデートはどうなるんだろう、と、ケイがぼうっと考えていたら、



「話があるんだ。座ってくれ、ケイ」


父が重苦しく言った。


嫌な予感が最大限にまで達する。

不謹慎かもしれないけど、顔も定かではない親戚が亡くなったと聞かされる方が、まだ少しはマシだったろう。



「お父さんとお母さん、離婚することにしたんだ」


ケイが座ってさえいないのに、沈黙に耐え切れなくなった様子で父は言う。



「何度も何度も話をしたんだが、やっぱりもう無理だという結論に達した」

「………」

「ケイには悪いと思っている。でも、もう決めたことだから」


『決めたこと』って、何?

っていうか、私、受験前なのに、こんな時に言う?


ケイは何も言えないまま、涙も流れず、代わりに口から乾いた笑いが漏れた。



「すぐにすぐの話ではないが、お父さん、この家を出て行くよ。ケイはお母さんとここに残るといい。男親と一緒にいるより、女親と一緒の方がいいだろう?」

「………」

「だからって、別に、もう二度と会わないとかじゃないんだ。親子なんだから、会いたい時にはいつでも会える。ただ、もう3人で一緒に暮らすことができないというだけで」

「………」

「生活のことや、大学のことは気にしなくていい。きちんとする。だから、ケイは何も心配しなくていい」
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