空蝉


翌朝。




泣き腫らして目は腫れぼったくなっている上に、眠れないまま泣き続けていたからなのか、ひどい倦怠感に襲われた。


こんなんじゃ、悠生とのデートになんて行けない。

行ったところで、笑顔を作ることさえできないだろうから。



ケイは悠生に【風邪引いたから今日は行けなくなった】とだけメールを送り、携帯の電源を切った。



とにかく誰にも邪魔されずに寝ていたかった。

寝れば、目が覚めた時にすべて夢だったということがあるのではという、一縷の望みもあったから。


ケイは一日中、家に引きこもっていた。




父は朝から接待ゴルフに出掛けたらしい。

母も昼前に「会社で明日の会議のための資料を作るから」と、出て行った。


昼を過ぎた頃、空腹に耐え兼ね、ケイはひとりで味気ないパンを咀嚼する。


こんな時ですら、お腹が空くなんて。

普通はショックで食事も喉を通らなくなると思うんだけど、だから私、痩せないんだよなぁ、と、どうでもいいことを思った。




そんな時、チャイムが鳴った。

髪の毛がぼさぼさなので、無視しようと思ったけれど、またピンポーンとチャイムが鳴り、仕方がないからケイは玄関まで向かう。


ドアを開けたら悠生が立っていた。



「顔色が悪いな。熱は?」

「どうして……」

「電話したけど、携帯、電源が切れてたから、心配になって」


「ほら」と、悠生は買い物袋をケイに差し出した。

中には、清涼飲料水や、冷却シート、風邪薬などが入っていた。



「何か食ったか? おじさんとおばさんは?」
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