空蝉
「えっと。体調悪いと情緒不安定になるじゃん? あと、生理前だからホルモンバランスが」

「ケイ」


悠生は、そんなケイの言葉を止め、



「何があった?」


真っ直ぐにケイの目を見て問うてきた。


隠し通せないと思った。

ケイは息を吐いて、



「お父さんとお母さん、ついに離婚することにしたんだって」

「え……」

「あ、でも、私はこの家に残るし、大学もここから通うよ。お金のことは大丈夫らしいから」

「………」

「そういえば、私、名字が変わるのかなぁ? やだなぁ。変な感じしない? っていうか、名字が変わったらみんなに知られちゃうし、せめて高校を卒業するまでは」


何でもないことのように言っているつもりだったのに、悠生の目があまりにも真っ直ぐだったから、それ以上、強がれなくなって。



「やだよ、ほんとは。ずっとお父さんとお母さんと一緒がいいよ。離婚なんてしてほしくないよ」

「………」

「でも、そんなこと言ってお父さんとお母さんを困らせたくない。これ以上、私のために我慢させたくない。今までずっとそうだったの、知ってるから」


ぼろぼろと涙が溢れてくる。


無言でケイを引き寄せる悠生。

悠生の胸の中で、ケイは今まで我慢してきた声を出して泣いた。



「ねぇ、私、どうしたらいいの?」


吐き出すように言ったのに、悠生は何の言葉も返してはこなかった。


真っ黒い色に覆い尽くされてしまった、空。

ケイの涙と同調するように、雨粒が窓を濡らし始めたのは、それからすぐのことだった。

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