空蝉
追い掛けてきたアユに、腕を掴まれた。

廊下の隅に引っ張られる。



「何考えてんの? いきなり。何があったの? 何で悠生と別れる話になってんの?」


アユは矢継ぎ早に問うてくる。



「ケイ、悠生のこと嫌いになったの? そんなはずないよね? ケイ、悠生のこと大好きでしょ? 私知ってるよ。それなのに、どうして」


まるで自分のことのように、アユは泣きそうな顔だった。




私だって本当は、悠生と別れたくなんてない。



でも、ちょうどいい機会だと思ったから。


受験前の大変な時期に自分の家庭のことで思い悩ませたくなんてないし、悠生の迷惑にだけはなりたくなかった。

両親が離婚するし、だったら私も悠生との関係を終わらせてあげようと、昨日の晩、ケイは思ったのだ。



「アユちゃんには関係ないでしょ」

「え?」

「アユちゃんに私の何がわかるっていうの? 何も知らないくせに、私たちのことに首突っ込んでこないでよ」


涙が出そうだったからこそ、ケイは強がって言った。

アユは目を伏せる。



「そりゃあ、確かにふたりの問題だけど。でも!」


言いかけたアユを遮る。



「悠生だって嫌だとは言わなかったし。もう終わったことだからいいじゃない」

「ケイ……」

「私、保健室に行くから、先生に言っといて」


言い捨て、ケイはアユの手を振りほどいて再び廊下を進んだ。


泣かないように歯を食いしばる。

続けることより終わらせる方が簡単だなんて、悲しい話だ。

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