空蝉


悠生のことが好きだからこそ、別れを選んだ。


悠生がそのことをどう思っているのかはわからない。

でも、あれから一度たりとも連絡を取ったりするようなことはなく、教室でも、目も合わさない。



悠生にとっては、やっとうざったい女が消えて、肩の荷が下りたという感じなのかもしれないけれど。




アユとも話さなくなった。

最初は、それでも話しかけてくれていたアユだったが、ケイがあからさまに避けるようになったため、今はそれもなくなった。


4年も付き合っていたケイと悠生が公衆の面前で別れたことは、噂のネタだった。


噂には尾ひれが付き、最終的にはアユを含めた三角関係のもつれだという話に納まっているらしい。

ケイがアユを避けているから余計、そう言われているのだろうが、ケイも、悠生も、アユも、誰もその噂を否定も肯定もしないまま、沈黙を貫いている。




もう、どうだってよかった。




願ったところで叶わないことばかり。


疲れてしまっていたのだ。

頑張ったって何ひとつ報われやしないのだから。





日に日に、家の中から父の物が減っていく。

どこに運んでいるのかは知らないし、聞く気もない。


家が広くなるにつれて、日焼けした空白が目立つようになる。


私の心の中と同じ。

ぽっかりと空いてしまった穴を塞ぐ術は、まだ見つからない。

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