空蝉
3
学校の手続きなどの関係もあり、両親が籍を抜くのはケイが卒業してかららしい。
でも、この家から、父のものが綺麗になくなった。
物心つくより前から当たり前だった日常の風景は、今はもう、見る影もない。
小ざっぱりしてしまった、女だけの家。
今まで以上に増す、ひとりっきりの時間。
だからケイは、そのほとんどを受験勉強に費やした。
家族のことや、悠生のことは関係なしに、ケイには夢があり、それを叶えるために、希望の大学に合格したかったから。
今の私には静かな時間が多いのはちょうどいいと、ケイは自分に言い聞かせた。
そしてそれは、そんな中での出来事だった。
放課後、帰宅しようと靴箱に行った時のこと。
アユが、数人の女の子に囲まれている場面に遭遇し、ケイは思わず陰に隠れた。
気付かれないようにしながらも、覗き見る。
「あんた前から目ざわりだったんだよね」
「マジで何様? まさか自分のこと可愛いとでも思ってんの?」
「親友のカレシ寝取るとか、最低じゃん。ブスのくせに気持ち悪いっつーの」
「よく平気な顔して学校来れるよね。その神経、疑うわ」
あの噂の所為だと、瞬時に思った。
が、怖くてケイはその場でおろおろするだけ。
しかし、アユは女の子たちの言葉に動じることもなく、
「あんたらさぁ、悠生のことが好きなら、私を罵倒する前にやれることあるんじゃないの?」
と、言ってのけた。
女の子たちの顔が怒りと羞恥で紅潮する。
アユが「図星か」と鼻で笑うと、女の子たちは舌打ち混じりに「行こう」と言って、向こうに行ってしまった。
アユはその女の子たちの背中に向け、べーっと舌を出していた。