空蝉
2
それからはまた、繁華街で目が合っても、翔が声を掛けてくることはなくなった。
夏休みに入った。
アユは相変わらず、平日の夜の時間はバイトに費やしている。
それが康介と会わないための理由づけにもなっているからだ。
しかし、ある夜のバイト終わりに、康介から【今すぐうちに来い】と、いつものように一方的なメールが送られてきた。
バイトで疲れているとはいえ、康介にそんな言い訳が通じるはずもない。
そうわかっているからこそ、従うように、アユはその足で康介の家に向かった。
康介は酒臭かった。
また飲んだくれていたのか。
アユは無性にイラついた。
「遅ぇんだよ。何やってたんだ」
「バイトだったんだよ」
「バイトだぁ? ほんとにそうなのか、怪しいもんだぜ。お前、他に男でもいるんじゃねぇのか」
あんたじゃないんだから。
言い掛けた言葉を、アユはぐっと飲み込んだ。
「私は浮気なんてしないよ。ほんとにバイトだったって言ってるじゃない」
しかし、酒に酔っている康介は、いつも以上に沸点が低くなってしまっているらしい。
アユの言葉に「あ?」と顔を歪め、
「何だ、お前、その言い方は。偉そうにしてんじゃねぇよ」
バチン。
頬を張られ、アユはその衝撃で尻餅をついた。
よろよろと立ち上がった康介は、