空蝉
そこでふと、アユの目がこちらに向き、覗き見ていたことを気付かれてしまった。



「あ……」


途端に、見られてしまったバツの悪さからか、困ったように苦笑うアユ。

ケイも、もう隠れていても意味はないと判断し、アユに近付いた。


だからって、何を話せばいいかもわからない。



「ああいうこと、よくあるの?」

「んー。表立って言われたのは今のが初めてだけど、通りすがりに陰口とかは、たまに」

「………」

「あ、別に気にしないでね。私の素行にも問題あるんだろうし」


アユはあっけらかんとして言っていた。




けれど、思い出すのは、真理のこと。

真理もこうやって陰ながらいじめられていたのだ。


ケイは、急に自分が恥ずかしい人間に思えてきた。


真理の時はただ単純に気付けなかっただけだけれど、でも今回のは、明らかに原因は私。

ケイが愚かにもアユに八つ当たりをして、仲直りすることもせずに避け続けていた結果が、これなのだ。



今、この場面に遭遇していなければ、アユは第二の真理になっていたかもしれないと思うと、身がすくんだ。



「ごめんね、アユちゃん。今まで、私……」

「え? 何? どしたの?」


泣いていいはずのないケイが泣き出すと、アユは今までと変わりない顔で「大丈夫?」と心配してくれる。



「私、アユちゃんにひどいこと言った。アユちゃんは何も悪くないのに」


ケイはぐずぐずと鼻をすする。

アユはくすりと笑い、



「全然平気。それに、私、こういうの慣れてるし」


あたたかな手によって、涙を拭われた。

しかし、こらえきれなくなったケイは、アユに抱き付いてわんわん泣いた。

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