空蝉
「悠生はそんな風に思ってないと思うけど」


はっきりと言うアユ。

ケイはよくわからずに、「え?」と声を漏らした。



「ケイには言うなって今まで口止めされてたけど、私、ケイのことで悠生から色々相談されててさ。あ、別に変な意味じゃないよ? 私がケイと同性の友達だから話しやすかったみたいで」

「相談って?」


生唾を飲み込みながら聞いた。



「あいつはさ、ケイの前でかっこつけちゃうんだって。ケイを支えてあげたいからこそ自分は完璧でいたいっていうか?」

「………」

「『ケイは頼りないから俺がしっかりしてなきゃ』って。まぁ、その所為で完璧人間の仮面を外すタイミングを逃してるけど」

「………」

「ケイだけが一方的に悠生のこと好きなんてことはないよ。悠生は悠生なりに、悩んでる」


アユは言い切った。

ケイは、それでもどこか信じられなくて。



「これ、言っていいのかわかんないけど」


と、前置きのように言ったアユは、



「悠生ね、最初は地元を離れてサッカーの有名な大学を狙ってたんだって。でも、ケイをひとりにしておけないからって、進路変更して、今の、地元の大学に行くことにしたみたいなの」

「……え?」

「私、『ほんとにそれでいいの?』って何度も聞いたんだけど、でも悠生の意思は固かった。『俺がケイのためにしてやれることはそれくらいしかないから』って」


あの日、朝、廊下で険しい顔で話していたふたりの会話の内容はそれだったのかと、今になってやっとわかった。

そして、それと同時に、悠生の、目に見えない優しさにも気付かされた。



「悠生ね、言ってたよ。『ケイは家のこと色々抱えてて、ほんとは弱いのに無理して笑ってる』、『俺はそれを見てるのが辛い』」

「………」

「『でも、俺はただの高校生だし、無力な子供でしかない』、『ケイのために何もしてやれない』、『だから、ケイが俺と別れたいと思ったなら仕方ない』って」
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