空蝉
先ほど、さんざん泣いたはずなのに、また別の涙が溢れてきた。

アユは困ったように笑いながら、ケイにハンカチを差し出してくれた。



「まぁ、その辺のことは、悠生とちゃんと話しなよ。それこそ私が首突っ込むべきじゃないんだろうしさ」


ハンカチからは、アユの匂いがした。

おひさまみたいな匂いが。



「ごめんね、アユちゃん。ありがとね」


声を震わせながら言ったケイに、アユは、



「ケイは素直でいい子。私の憧れ。私、ほんとはケイみたいになりたいって、いつも思ってたよ」

「うそっ」

「ほんと。きっと、そう思ってる子、多いと思うよ。私が男なら、悠生から奪い取ってやりたいくらいだよ」

「アユちゃん……」


感涙に浸っていたら、それを遮るように、アユの携帯が無機質な電子音を響かせた。

アユは「ちょっとごめん」とそれを取り出し、ディスプレイの名前を見て肩をすくめ、



「はーい。え? 今は友達と駅の近くのカラオケ。えー? だから、友達といるんだってば。はぁ? またそうやって、勝手なこと言って。って、ちょっと!」


勝手に通話を終了されてしまったらしい。

アユは怒った顔で、「ほんと、あの馬鹿は」と、口を尖らせていた。


ケイはアユから借りたハンカチで涙を拭い、



「誰かに呼び出されたの? いいよ? 私のことは気にしなくて」

「いや、ごめんね、マジで。私友達といるって言ってんのに、あいつ、人の話聞かないタイプだから」


しかし、その言い方からして、親しい関係の相手なのだろうなと思った。


そこでケイはふと、夏休みの出来事を思い出した。

確かアユは、『付き合おうみたいなこと言われた』らしいが。



「もしかして、カレシ?」
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