空蝉
カラオケ屋を出て、待ち合わせ場所までふたりで向かう道中、アユは想い人の名前が「翔」ということを教えてくれた。
確か、悠生が見た限りでは、『年上』だとか『イケメン』だとか色々言ってた気がするが、やっぱりちっとも想像できなかった。
駅の近くのコンビニに止まる黒いセダンの元に、アユは真っ直ぐ歩を進めた。
それに気付いたように、車から降りてくる男の人の影。
ぱっと見だと、本当に悠生が言った通りだった。
「遅ぇよ、馬鹿。あそこのカラオケからどんだけ時間かけて歩いてきたんだよ」
翔は毒づく。
「そっちがいきなり電話してくるからでしょ」
アユも口を尖らせる。
が、それを受け流した翔は、アユの隣にいるケイに目をやり、「誰?」と聞いてきた。
「友達。前から何度か話したことあったでしょ。ケイだよ」
「あ、どうも」
自分から会わせてくれと頼んでおいて、ケイは緊張で愛想のひとつもできなくて。
確かにかっこいい人だし、アユとはお似合いのように見えるが、しかし、何かが引っ掛かる。
翔に対しての違和感とでも言えばいいか、どこかで会ったことがあるような気がするが。
翔も眉根を寄せ、
「なぁ、ケイちゃん。俺ら、前に会ったことない?」
と、ケイが思ったことと同じことを口にしたから驚いた。
アユは呆れたような顔になり、
「ちょっと、私の友達を口説こうとしないでよ。そういうのは、せめて私のいないところで」
「違ぇよ。マジでそういうのじゃなくて」
ケイの顔をまじまじと見ながら、腕を組んで「うーん」とうなる翔。
凝視されすぎて、ケイは穴が開いてしまいそうだと思ったのだが、