空蝉
知らなかった。

真理の母が亡くなっていただなんて。



「俺もまぁ、そういうのもあって、滅茶苦茶なことしてたよ。やさぐれてた頃もあったっつーか?」


この人は、あれから、どれだけの苦しみの中にいたのだろうかと思う。



「ヨシキは、どうなんだろうな。今も記憶の中の真理と過ごしてる。でもあいつもうそろそろダメかもな」

「……ダメって?」

「わかんねぇけど、多分、真理のところに行きたがってる」

「え……」

「みんな、それぞれに真理が死んだことと向き合ってきた。けど、まだ、ヨシキだけ、それができてねぇの。真理の死を受け入れてないっていうか」

「………」

「まぁ、それはあいつ自身の問題だから、自分で乗り越えるしかねぇんだけど」


翔は、そして「悲しい話だな」と言った。



真理が死んで、もうすぐ5年だ。

一度も墓参りに行けなかったけれど、今年は勇気を出して、ちゃんと行こうと思った。


真理に会って、今までごめんねと、謝ろう。



「私、今日、お兄さんと会えて、話せて、よかったです」


ケイは涙を拭いながら言った。

翔は「俺もだよ」と返す。


でも、翔はすぐにいたずらな笑みになり、



「今度はアユに内緒で、ふたりっきりで会おうね、ケイちゃん」


と、言うから、横からアユに蹴り飛ばされていた。



「あんたほんとありえない! 馬鹿じゃないの?」

「いってぇなぁ、おい。冗談だろ? 俺が今好きなのはお前だけだよ」


機嫌を取るように、アユの肩に腕をまわす翔。

しかし、アユは呆れた顔でその手を払いのけていた。
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