空蝉
「おいおい、機嫌直せよー。嫉妬すんなっつーの」

「してないし。自意識過剰だから、それ」


呆れた顔をしながらも、アユの耳は赤くなっている。


泣き笑い顔で、ケイは噴き出した。

翔は多分、わざとアユを怒らせたくて、その反応を見たくてやっているのだろうなと思ったから。



ケイはアユの腕を引っ張り、声を潜めて、



「ラッブラブだねぇ」


と、からかうように言ってやると、アユは今度は「はぁ?!」と顔を歪めながらも、茹でダコのようだった。

それを見て、ケイはまた笑う。



「ってことで、私、お邪魔みたいだからもう帰るよ」

「え?」

「今日は色々ありがとねぇ、アユちゃん。私もう、色んなことから逃げないって決めたよ」


その言葉を聞き、ふっと笑ったアユは、



「お礼なんかいらないよ。だって私たち、親友でしょ?」


迷いなく、はっきりと、アユはケイを『親友』だと言う。

ケイも強くうなづいた。



「ついでだから送ろうか?」


と、翔は言ってくれたが、ケイはそれを断り、



「これから悠生のところに行こうと思う」


と、言った。

アユはただ一言、「頑張れ」と、背中を押してくれた。


ケイは、アユと翔に「またね」と手を振り、きびすを返す。



今晩は、悠生に告白したあの日と同じくらい、澄んだ空気の中で、夜空に星が輝いていた。

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