空蝉
「何様だよ、てめぇ! その目は何だって聞いてんだよ!」


バチン、バチン。



倒れ込んだアユの髪を、康介は掴み上げた。


痛みと恐怖で涙が溢れてくる。

震えが止まらない。



「俺に逆らったら殺すぞ! てめぇ、死にてぇのか? あぁ?!」


髪の毛を掴み上げられたそのままに、頭を激しく揺すられる。

吐きそうだった。



「……ごめっ、なさっ……」


嗚咽混じりに、アユはやっと声を出した。


康介はアユの頭を畳に叩き付けた。

苦痛で悲鳴にも似た声を出したアユの口を、さらに押さえ付けた康介は、



「てめぇは黙って俺の言うことにだけ従ってりゃあいいんだよ!」


吐き捨て、自らのズボンのベルトに手を掛けた。


このままじゃあ、私はほんとに殺されてしまう。

そう思った瞬間、アユは後先など考えることもなく、渾身の力で上に乗る康介を突き飛ばした。



「ってぇなぁ、こらぁ!」


しかし、酒に酔っている康介の足はふらついている。


逃げるなら今しかない。

アユは足をもつれさせながら、這うように康介の部屋を出た。



「待てよ、くそが!」


怖くて振り返ることもできないまま。

息が切れてもまだ、アユは足を止めることなく走り続けた。

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