空蝉
夜6時半。
住宅街の一角に立つ家の前で、一度深呼吸をして、ケイはチャイムを押した。
少しして玄関のドアを開けたのは、悠生の母だった。
「あら、ケイちゃん、どうしたの?」
いきなり訪ねても、特に警戒されることもない。
4年も付き合っていれば、悠生の母とも顔馴染みだ。
「あ、えっと。悠生、いますか?」
「ゆう? ちょっと待っててね」
悠生の母はリビングに向かって、
「ゆうー! ケイちゃん来てるわよー!」
と、大きな声を出した。
ばたばたと足音がして、現れた悠生。
驚き過ぎているのか、顔が崩れていた。
「な、何で」
言い掛けた悠生を遮り、
「ついでだからケイちゃんも晩ご飯、食べていく? 今夜はね、すきやきなのよ。お肉、いいやつなの。うふふ」
相変わらず、可愛らしい人だなと、こんな状況なのに、いつもと同じようなことを思う。
少しの間、固まっていた悠生だったが、
「母さん。俺、ちょっとケイと外で話してくる」
「え? 話なら中でしなさいよ。寒いし、晩ご飯を食べるついでに」
「いいから。とにかく外出るから」
強引に言った悠生に連れ出された。
ふたりで近くの公園のベンチに座る。
しかし、色々な想いが頭の中を巡り、何から言えばいいのかわからない。